2007年8月20日、沖縄・那覇空港でチャイナエアライン CI120便 ボーイング737-800 B-18616が火災を起こし、機体が全焼する事故がありました。
スラットの駆動部分に取り付けられていたボルトが脱落し、着陸後にスラットが収納された際に脱落したボルトが押し出され、燃料タンクを貫通、漏れた燃料に引火し、爆発炎上を起こしましたが、乗員乗客165名全員は緊急脱出し死者は1人もいませんでした。
爆発を繰り返しながら機体が全焼した大事故にもかかわらず乗員乗客全員が緊急脱出し生還した背景には、「90秒ルール」の存在が大きく関わっているのを、ご存知でしょうか?
航空機メーカーに求められる「90秒ルール」
「90秒ルール」というのは、国際的に定められた航空機の安全基準の一つで、新型の航空機を開発する際には、このルールを設計段階で盛り込むことが、航空機メーカーに義務付けられています。
具体的には、機体の大きさや定員に応じた数・サイズの非常口を設けることで、深夜の暗闇や、何らかの悪条件で非常口の一部が使えなくなったとしても、90秒以内に乗員乗客全員が機外へ脱出できるようにするルールです。
航空機の開発段階にもこのルールは設けられていますが、一般の方はあまり知らない方が多いかもしれません。
航空会社に求められる「90秒ルール」
一般の方がよく知っている、もう一つの「90秒ルール」は、航空会社側に設けられているルールです。乗員は、客室乗務員であろうと運航乗務員(パイロット)であろうと、乗客の安全を守る保安要員です。万が一機体で火災などの緊急事態が発生した場合、航空機メーカー側に求められるものとは別に、乗員には乗客を一刻も早く、かつ安全に機外へ脱出させるように避難誘導を行うことが求められます。航空会社側では乗員に対し随時緊急脱出および避難誘導の訓練を行っているほか、整備士などによって非常用設備のメンテナンスも欠かさずに行われています。
乗客に求められる「90秒ルール」
ただ、それだけでは「90秒ルール」の遵守は難しいのが、お判りでしょうか?最終的には乗っている我々、乗客もこのルールの遂行のために、守らなければならないことがあります。
- 手荷物は頭上の棚か前の座席の下にいれ、非常口付近・通路には置かない
- 脱出用スライダーを滑る際は上体を起こし、脱出時に手荷物を持ったりヒールで滑り降りたりしない
- 脱出後は素早く機体から離れる
- 非常口座席に座っている乗客は緊急脱出時に援助する
- 酸素マスクを除く非常用設備の使用などには乗務員の指示に従う
これらの内容は、出発前のセーフティーデモンストレーションビデオで紹介されるほか、一部はシートポケットに置いてある「安全のしおり」にも記載されているので、有事に備えて目を通しておくようにしましょう。
90秒ルールの根拠は?
ちなみに、なぜ「90秒」なのでしょうか?ご飯を落とした時の「3秒ルール」(5秒ルールとする地域もある模様)には信憑性に疑問が残りますが、「90秒ルール」には根拠があります。
1982年に発生したホテルニュージャパン火災で話題になった、「フラッシュオーバー」という現象です。
これは簡単に言えば「小規模の火災が秒単位の短時間で爆発的に広範囲に延焼する」現象で、航空機などの密閉された空間などで発生しやすく、90秒以上経つとフラッシュオーバーがいつ発生してもおかしくないほど機内が高温になっていると考えられます。
そのため、この「90秒」というのは、言わば乗客乗員全員の緊急脱出にかかる時間の上限と言えるわけです。
いかがでしたか?航空機でトラブルが発生し、万が一緊急脱出しなければならなくなった場合、乗客の皆さんも航空会社の乗員からの指示に従い、落ち着いて行動することが重要です。
もし今度飛行機に乗ることがあれば、ルールに忠実な行動が命を守る、ということを肝に銘じつつ、セーフティーデモンストレーションビデオや安全のしおりをじっくりと見ることをお勧めします。
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