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「マスクせず」が理由ではない?飛行機から降ろされてしまう行為とは

2020年に入り、新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の流行が拡大したことから、政府が提唱した「新しい生活様式」により、日常生活においてマスクをつける機会が増えました。一方、感染拡大防止の観点から、航空便の減便や運休が相次ぎ、海外では破産に追い込まれる航空会社も相次ぐなど、航空業界は苦境に立たされています。

 

そんな中、航空機内でマスクを着用していなかったことに端を発し、トラブルになった旅客が航空機から降ろされるという事案が相次ぎました。

 

9月7日には、釧路発 大阪・関西行き ピーチ・アビエーション MM126便で、マスクの着用を拒否した男性乗客と客室乗務員とでトラブルになり、新潟空港に臨時着陸してこの男性を降機させる事案が発生。同月12日には、奥尻発 函館行き 北海道エアシステム JL2890便で、同じくマスクの着用を拒否した男性旅客を、出発前に降機させるトラブルも起きました。相次ぐトラブルに、同月15日には、赤羽一嘉・国土交通大臣からも「マスク着用の有無の確認と、着用できない理由の聴取の徹底」が呼び掛けられる事態になりました。

 

降機させられた乗客の後日談や一部メディアでは、「マスクを着けなかっただけで飛行機から降ろされた」「要請・お願いに過ぎないマスク着用を拒否しただけで降機はやり過ぎ」とも受け取られかねないような論説が目立っていますが、ここには明白な誤解があります。

 

航空法における「安全阻害行為等」

 

まず、今回マスクを着用しなかった乗客が航空機を降ろされるまでの流れを整理しましょう。

 

※臨時着陸した機体とは異なります

 

新潟空港に臨時着陸したピーチ・アビエーション MM126便の場合、マスクを着用していなかった男性乗客に、客室乗務員がマスク着用を指示したのに対し、男性乗客は「何の規則に基づくのか」「非科学的」と反論。出発後になっても、マスクの着用はおろか、座席の移動にも応じず、それどころか客室乗務員や周囲の乗客に対し、恫喝まがいの大声を上げる始末。これが航空法第73条の3における”安全阻害行為等”に該当すると判断され、新潟空港に臨時着陸の上、この男性乗客は降ろされることになりました。

 

奥尻空港から出発する前の北海道エアシステム JL2890便の場合、同じくマスクを着用していなかった男性乗客に対し、マスクを着用できない理由を尋ねたところ、「答えられない」「しつこい」などと非協力的な姿勢を見せたため、これも航空法第73条の3の”安全阻害行為等”に該当すると判断され、出発前にこの男性乗客は降ろされました。

 

ここで出てきた、航空法第73条の3には、

第七十三条の三 航空機内にある者は、当該航空機の安全を害し、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産に危害を及ぼし、当該航空機内の秩序を乱し、又は当該航空機内の規律に違反する行為(以下「安全阻害行為等」という。)をしてはならない。

と書いてあります。その次項である航空法第73条の4には、この”安全阻害行為等”を行った場合、機長はどのような対処が取り得るのかが記されています。

第七十三条の四 機長は、航空機内にある者が、離陸のため当該航空機のすべての乗降口が閉ざされた時から着陸の後降機のためこれらの乗降口のうちいずれかが開かれる時までに、安全阻害行為等をし、又はしようとしていると信ずるに足りる相当な理由があるときは、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持のために必要な限度で、その者に対し拘束その他安全阻害行為等を抑止するための措置(第五項の規定による命令を除く。)をとり、又はその者を降機させることができる。
(中略)
5 機長は、航空機内にある者が、安全阻害行為等のうち、乗降口又は非常口の扉の開閉装置を正当な理由なく操作する行為、便所において喫煙する行為、航空機に乗り組んでその職務を行う者の職務の執行を妨げる行為その他の行為であつて、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持のために特に禁止すべき行為として国土交通省令で定めるものをしたときは、その者に対し、国土交通省令で定めるところにより、当該行為を反復し、又は継続してはならない旨の命令をすることができる。
(危難の場合の措置)

と書いてあります。

 

「安全阻害行為等」とは?

 

国土交通省航空局では、以下に挙げる行為を「安全阻害行為等」として禁止しています。

安全阻害行為等は航空機の運航や他のお客様の安全に支障を及ぼす恐れがあり法令で禁止されております。
特に、機長は以下の行為をした者に対して禁止命令を行うことができます。
1.トイレ内で喫煙すること(電子たばこや加熱式たばこ等、蒸気を発生するものも含む)
2.携帯電話などの電子機器を使用すること
3.乗務員の業務を妨げること
4.指示に従わず座席ベルトを装着しないこと
5.離陸時に座席の背やテーブルなどを所定の位置に戻さないこと
6.手荷物を脱出の妨げとなる場所に放置すること
7.非常用機器をみだりに使用すること
8.乗降口の扉などをみだりに操作すること

 

総括すると、「機内の秩序を乱し、航空機の運航や他の乗客の安全を阻害する恐れがある行為」ということになります。1つ1つ見ていきましょう。

 

  1. 機内は全面禁煙となっていますが、特に化粧室に隠れて喫煙行為をすることは、安全阻害行為等に該当します。近年では電子タバコが普及していますが、電子タバコ等も使用できません。
  2. 携帯電話などの電波を発する電子機器は、航空機の運航システムに障害を与える恐れがあることから、使用は禁じられていますが、これを使用することも航空機の運航に支障をきたすため、安全阻害行為等に該当します。
  3. セクハラ行為のほか、泥酔して客室乗務員に絡んだり、無理な要求やクレームで長時間拘束したりするなど、客室乗務員の業務を妨害することは、安全阻害行為等に該当します。
  4. 自動車同様、シートベルトを着用しないことは、緊急時に周囲の乗客にも影響を与える恐れがあることから、安全阻害行為等に該当します。
  5. リクライニングやテーブルが所定位置に戻されていないと、緊急脱出の際の支障になるため、離着陸時にリクライニングやテーブルを所定位置に戻さないことは、安全阻害行為等に該当します。
  6. 通路や非常口付近に手荷物を放置することも、緊急脱出の際の支障になるため、安全阻害行為等に該当します。
  7. 救命胴衣や酸素マスクといった非常用設備を非常時以外に使用することは、安全阻害行為等に該当します。通常なら触れないものなので、好奇心を抑えましょう。
  8. 乗降用の扉をみだりに操作することは、急減圧や脱出用スライドの誤作動など思わぬ事故の原因になり、大変危険なため、安全阻害行為等に該当します。

 

「安全阻害行為等」をするとどうなる?

 

乗客が安全阻害行為等をした場合、または安全阻害行為等をこれからしようとしている場合、もしくは安全阻害行為等をしそうと言える理由がある場合、機長は航空法第73条の4の5項に基づき”禁止命令”を出すことができます。機長からの禁止命令にも従わなかった場合、航空法違反として50万円以下の罰金が科せられることがあります。なお、この法律は日本の航空会社のみならず、日本上空を飛行する航空機全てに適用されます。

 

先述した航空法第73条の4に基づき、禁止命令以外にも、機内の秩序や規律の維持、航空機の運航や他の乗客の安全を確保するため、当該乗客を機内で拘束したり、航空機から強制的に降ろすことも、法的には可能になっています。

 

マスクを着用しなかった乗客は何をしたのか

 

一見すると、今回マスクを着用しなかった乗客は、何もしていないのに降機させられたかのように見えてしまいますが、これらの乗客には降機させられるに足りる理由があります。

 

ピーチ・アビエーションの件では、男性乗客は客室乗務員や周囲の乗客に対し高圧的で、大声を出すなどして機内の秩序を乱したことや、客室乗務員の業務を妨害したことが、安全阻害行為等に該当し、降機させられたと考えられます。また、客室乗務員からのマスク着用の指示にも「義務なのだから」と従わず、拒否理由を言わなかったことも、降機させられた一因と言えるでしょう。予定外の着陸をすることになったピーチ・アビエーションは、威力業務妨害罪に基づき損害賠償請求をすることも視野に入れているそうです。

 

北海道エアシステムの件でも、マスク着用の拒否理由を言わなかったことが降機させられた理由とされていますが、航空会社からの要請・お願いであり、努力義務に過ぎないマスク着用指示を拒否したことの何が問題だったのでしょうか?

 

もう一度、安全阻害行為等のところを見ると、「航空機の運航や他のお客様の安全に支障を及ぼす恐れ」がある行為と定義されており、ここからは2つの可能性が見えてきます。

 

1つ目は、昨今の新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の流行を鑑みたもの。特に航空機の機内はいくら換気されているからとはいえ密室であり、他にも数十人~数百人の乗客が乗っています。集団感染の例も報告されている以上、たった1人の乗客のわがままで、他の何人もの乗客を危険に晒すわけにはいかないので、これが航空法第73条の3に該当した可能性があります。

 

2つ目は、有事の際の危険性を鑑みたもの。2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ以降、テロ対策が厳重化されたことを考えると、例えば機内に持ち込んだ手荷物が「不審物」と見なされてしまったからと言って、中身を言わないままだったり、中身の検査に応じないようでは、出発することはできません。後出しで「人前で持病を言いたくなかった」などと言うことはいくらでも可能ですが、先述した通り密室となる機内では、不安要素は少しでも早めに排除しておくことが優先されます。また、緊急時には客室乗務員から様々な指示が出され、乗客は臨機応変に従うことになりますが、マスク着用の指示にも反抗的になってしまうと、緊急時にも客室乗務員の指示に従ってもらえないと判断されてしまう可能性があります。そうなると安全を確保できないため、航空法第73条の3に該当する可能性があります。

 

新設されたガイドラインに従い、快適な空の旅を

 

結論から言うと、今回のピーチ・アビエーション及び北海道エアシステムの対応は、法的には問題なく、それどころか航空機の安全のためにはやむを得ない対応だったといえます。

 

相次いだマスクの着用拒否を発端とする一連のトラブルを受け、定期航空協会は9月18日に以下のガイドラインを策定しました。

 

「同調圧力」などと批判的な意見も聞かれますが、感染力の強い新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が収束していない以上、感染拡大防止と乗客の安全確保が優先されます。アレルギーなどでマスクの着用が不可能な場合、フェイスシールドやバンダナでも代用可能ですし、事前に理由を知らせておけばトラブルは避けられます。仮に、客室乗務員から周囲に乗客のいない席への移動を促されたら素直に従いましょう。

 

航空会社側の対応が気に入らないからと言って、理由も言わずにマスクの着用や座席の移動に応じず、マスクのみならず、客室乗務員や他の乗客に対し威圧的になってしまうと、搭乗を断られたり航空機から降ろされてしまうのみならず、航空法違反や威力業務妨害罪などの犯罪行為とみなされてしまう可能性もあるので注意しましょう。

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